ビタミンDと甲状腺の健康: どのような関係があるでしょうか? (SQ-78)
最近ビタミンDが話題になっています。この太陽のビタミンは骨と筋肉の健康に重要であることは良く知られています。現在進行中の研究は、従来の骨の成長効果を越えた、ビタミンDの様々な健康効果も明らかにしています。例えば、免疫力の調整、心機能のサポート、炎症の減少などが知られています。最近では、ビタミンDが大人と子供の両方における、上気道感染、喘息、アレルギーのリスクを低下する効果を多くの研究が示しています。
ビタミンDが甲状腺の健康にも重要な役割を持つことをご存知ですか?驚くべきことではありません。甲状腺疾患の患者や、すでに薬を飲んでいる方にも、症状を改善するために追加の栄養サポートをが必要です。栄養素にはヨード、セレン、亜鉛、マグネシウム、B12、プロバイオティクスなどが含まれ、ビタミンDは特に重要な役割があります。
ビタミンDは甲状腺が最適に機能するのに必要で、研究は甲状腺に問題がある人たちは、ビタミンDが不足していることを示しています。[1] さらにビタミンD不足は、橋本病、グレーブス病、分娩後甲状腺炎などの自己免疫性甲状腺疾患のリスクを高めることでも知られています。それではビタミンDと甲状腺にはどのような関係があるのでしょうか?太陽のビタミンがどのように作用するのでしょうか?
甲状腺、そのホルモンと働き
甲状腺は首の前側にある小さな蝶の形をした分泌腺で、喉仏のすぐ下にあります。体内の多くの重要な機能を調節するチロキシン(T4)とトリヨードサイロニン(T3)を生成します。呼吸数、代謝、体重管理、心拍数、成長と発達、生殖機能、月経周期、コレステロール値さえも調整し、すべては甲状腺ホルモンT4とT3によってすべて調整されます。
体内のすべての細胞は、正常に機能するために甲状腺ホルモンに依存しています。下垂体腺は甲状腺刺激ホルモン(TSH)を分泌し、甲状腺はT4とT3を産生するようにシグナルを送ります。この過程で産生されるホルモンのほとんどはT4で、非活性のプロホルモンとして機能します。T4は活性型であるT3に変換されます。
ここで問題なのは、あなたの甲状腺は内外からのあらゆる要因に対して非常に敏感で、正常な機能が妨げられてしまう点です。これは甲状腺機能亢進症や甲状腺機能低下症の原因となります。
甲状腺機能亢進は、甲状腺が働きすぎて、体が必要とする以上の甲状腺ホルモンを産生させる状態です。
甲状腺機能低下症は、甲状腺の働きが減少し、十分な甲状腺ホルモンを産生できない状態です。
甲状腺の問題と自己免疫要素
健康な免疫システムは、細菌、ウイルス、菌、寄生虫などの病原菌の侵入から体を守ります。抗体と呼ばれる特殊なタンパク質を放出して、外部からの侵入者を特定して破壊します。しかし一部の人たちは免疫系の働きがおかしくなってしまいます。自身の健康な細胞を外部の細胞と勘違いして、攻撃を始めることで、細胞に炎症とダメージを与えます。この自己免疫が甲状腺に対して行われた場合、自己免疫性甲状腺疾患が生じます。
橋本病は甲状腺機能低下症の患者の最も代表的な原因です。これは免疫系が甲状腺の細胞を破壊するTPO抗体を産生するという自己免疫疾患です。炎症を引き起こし、甲状腺が甲状腺ホルモンを産生する能力を低下させ、甲状腺機能低下症を引き起こします。非常に稀なケースですが、橋本病は甲状腺機能亢進症の症状を引き起こす場合もあります。
グレーブス病は、甲状腺機能亢進症(過活動甲状腺)の最も代表的な原因です。これは免疫系が甲状腺刺激免疫グロブリン(TSI)と呼ばれる、特異的な抗体を作り出す自己免疫疾患です。その名前が表すように、これらの抗体が甲状腺を刺激して、甲状腺ホルモンを過剰に産生させます。
免疫系障害になる最初の原因は何でしょうか?本当の原因に対する科学的な説明はまだありません。しかし科学者は、自己免疫性甲状腺疾患を含む自己免疫疾患の発症について、遺伝が決定的な役割を果たすと考えています。また腸の不調、副腎機能障害、慢性ストレス、代謝障害、食物過敏(グルテン不耐性)、感染症、慢性炎症、血糖値の不安定、環境毒素への曝露など、環境的な要素も大きく影響しています。すでに自己免疫症状をお持ちの場合は、自己免疫性甲状腺疾患のリスクも増えます。
栄養不足も甲状腺の謎の重要な点です。残念ながら多くの医師に見落とされがちな要素です。実際、セレン、ビタミンD、亜鉛、ビタミンA、ビタミンC、マグネシウムなどの栄養素は、すべて甲状腺ホルモンの産生、変換、活性化に重要な役割を果たします。これらの栄養素が不足すると、あなたは甲状腺の機能と健康を失うことになります。
ビタミンDと甲状腺の健康
ビタミンDは健康な甲状腺の働きを助ける
体のほとんどすべての細胞には、ビタミンD受容体(VDR)があります。これには免疫細胞、脳、心臓、肺、筋肉、甲状腺、腸の細胞が含まれます。活性型ビタミンDは体中にある細胞の受容体と結合して、それらを活性化します。それを受けて、活性化された受容体は、体が正常に機能するために必要な遺伝子の発現を調整します。
例えば、ビタミンDが免疫細胞の受容体に結合するとどうなるでしょうか?それは体が様々な感染症と戦うのに必要な、抗菌タンパク質の産生に関する遺伝子を活性化させます。そして腸内の受容体と結合すると、カルシウムの吸収を助ける遺伝子を活性化します。これが体内でのビタミンDの働きであり、全体の健康を維持するのに必要なすべての機能を実施することで、健康な甲状腺に重要な役割を果たします。
2017年の研究は、「全体を通して、現在の研究の結果は、100-125nmol / L以上の最適な25(OH)D濃度が正常な甲状腺機能に必要であることを示唆している。しかしビタミンB12のような、他の栄養素の状態を改善することも考慮に入れる必要がある。懸念事項として、ビタミンDの1日の推奨摂取量は、50nmol / Lの血清25(OH)D濃度を達成することをン目標値として、これは骨の健康だけを対象とする。ビタミンDは甲状腺機能を改善するための、安全で経済的なアプローチを提供し、甲状腺疾患を予防する可能性がある。」[2] と、結論付けました。また研究は、血清ビタミンD脳が高いほど、脳内の霧、体重増加、気分の問題、不眠症、エネルギーの低下などの、甲状腺機能の低下による症状を減少させることも発見しました。
ビタミンDと自己免疫障害のリスク
ビタミンDの低下が、多発性硬化症、1型糖尿病、狼瘡、慢性関節リウマチ、橋本病、甲状腺疾患などの甲状腺疾患を含む、自己免疫障害のリスクを増加させる多くの証拠があります。
2017年に実施された、ビタミンDと甲状腺の健康におけるデータのレビューは、ビタミンD不足が甲状腺自己免疫のリスクを増加させる原因である可能性を発見しました。[3]
免疫系機能において、ビタミンDには2つの役割があります。自然な免疫系を強化することで感染症との闘いを助けます。そして適応免疫系を調整し免疫耐性を改善することで、自己免疫を発症するリスクも軽減します。どのように働くのでしょうか?
ヘルパーT細胞、細胞傷害性T細胞、記憶T細胞、ナチュラルキラー細胞など、様々な機能を持つ多くのT細胞があります。そして免疫耐性を高めて、事項抗原に対する免疫反応を抑制することで、自己免疫障害の発症を防ぐ制御性T細胞(Treg)も含まれます。研究は、自己免疫障害の患者がTreg細胞の機能不全、または喪失していることを示しています。[4] ビタミンDは制御性T細胞の働き改善すると考えられています。[5]
ビタミンD不足は、甲状腺の問題を増加させますか?
研究はビタミンD値の低下と、次の症状の関連性を示しています:
- 橋本甲状腺炎(HT)やグレーブス病(GD)など、自己免疫性甲状腺疾患(AITD)の発症 [6] [7]
- 甲状腺抗体の高いリスク [8]
- 低レベルの甲状腺刺激ホルモン(TSH)
- 閉経前女性の自己免疫性甲状腺疾患リスク[9]
ビタミンD補給は甲状腺障害の治療に役立ちますか?
研究は、ビタミンD補給が甲状腺の働きを改善することを示しています。健康な数値のビタミンDは次の効果があります:
- 循環するTSH値の減少 [10]
- 甲状腺抗体値の減少[11] [12]
- 炎症の予防
もう一つ興味深い要素がこれに関連しています。甲状腺が十分なT4、T3ホルモンを産生しているケースを考えて見ましょう。T3は細胞内で働くため、まずは各細胞の核にあるT3受容体と結合する必要があります。これによりT3は活性化され、細胞の役に立つことができます。そしてこの重要なステップを実行するために、ビタミンD(そしてビタミンA)が必要となります。実際、甲状腺治療が効果を上げない場合は、ビタミンD不足が原因である可能性があります。
翻訳者: 千葉将臣
参考:
- Wang et al. Meta-analysis of the association between vitamin D and autoimmune thyroid disease. Nutrients. 2015
- Mirhosseini et al. Physiological serum 25-hydroxyvitamin D concentrations are associated with improved thyroid function&mdashobservations from a community-based program. Endocrine. 2017
- Nettore et al. Sunshine vitamin and thyroid. Rev Endocr Metab Disord. 2017
- Bossowski et al. Analysis of chosen polymorphisms in FoxP3 gene in children and adolescents with autoimmune thyroid diseases. Autoimmunity. 2014 Sep; 47(6):395-400.
- Siklar et al. Regulatory T Cells and Vitamin D Status in Children with Chronic Autoimmune Thyroiditis. J Clin Res Pediatr Endocrinol. 2016
- Tamer et al. Relative vitamin D insufficiency in Hashimoto's thyroiditis. Thyroid. 2011
- Mazokopakis et al. Is vitamin D related to pathogenesis and treatment of Hashimoto's thyroiditis? Hell J Nucl Med. 2015
- Sayki et al. Isolated Vitamin D Deficiency Is Not Associated with Nonthyroidal Illness Syndrome, but with Thyroid Autoimmunity. The Scientific World Journal. 2015.
- Choi et al. Low levels of serum vitamin D3 are associated with autoimmune thyroid disease in pre-menopausal women. Thyroid. 2014
- Chailurkit et al. High vitamin D status in younger individuals is associated with low circulating thyrotropin. Thyroid J. 2013
- Chaudhary et al. Vitamin D supplementation reduces thyroid peroxidase antibody levels in patients with autoimmune thyroid disease: An open-labeled randomized controlled trial. Indian J Endocrinol Metab. 2016
- Simsek et al. Effects of Vitamin D treatment on thyroid autoimmunity. J Res Med Sci 2016
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