妊娠中におけるビタミンD不足 (SQ-86)
女性にとって妊娠とは特別な時間です。また、成長する身体のニーズを満たし、自身の健康を維持・守るために、栄養所要量が著しく変化する時でもあります。
妊娠中の栄養不足、特に葉酸と鉄分不足は、母親、出生結果、新生児の健康に深刻な影響を与えることがあります。今回の記事では、妊娠中におけるビタミンD不足の影響についてご紹介します。妊娠中の女性の大半は、妊婦用ビタミン剤を推奨量摂取しているにもかかわらず、ビタミンD不足であることが多いため、非常に重要なテーマとなります。
ベジタリアンの女性、日光にあまり当たらない方、肌が浅黒い方は、ビタミンD不足のリスクが高いです。では母親と乳児の健康にとっては、どんな意味があるのでしょうか?
妊娠中におけるビタミンD不足
ビタミンDの健康効果のほとんどが、健康な骨や歯を維持する役割に関連しています。また、炎症や免疫反応を調節する役割も注目されはじめています。いくつかの研究で、低ビタミンDレベルが、心血管疾患、インスリン抵抗性、2型糖尿病、自己免疫疾患、特定の種類のガンなどのリスク増加と強く関連していることが分かりました。では、妊娠中の女性にとって、なぜビタミンDの状態は考慮すべき重要な問題であるのかを見てみましょう。
胎児のビタミンDレベルは、母親のビタミンDレベルに依存します。胎児のビタミンDの所要量は妊娠第三期に増加し、これが骨形成にとって最も重要な時期となります。しかしながら、妊娠初期においてもビタミンDは重要な役割を果たしており、着床の可能性や、流産のリスクに影響を与えることがあります。
研究は、母親のビタミンDレベルが低いと、母親と子供にとってよくない結果をもたらす可能性があることを示しています。これは流産、子癇前症、妊娠糖尿病のリスクを増加する可能性があります。また母親のビタミンD不足は、新生児の低出生体重、発育不全、骨の脆弱化、および喘鳴障害、喘息、自己免疫疾患、肥満などのリスク増加につながる可能性があります。さらには、お子さまのその後の生活の健康においても影響を与える可能性があります。また、母親は出産後においても、新生児のビタミンDの主な供給源であり続けます。母親のビタミンD状態は、赤ちゃんの成長と発達において大切なプロセスである、幼児の骨形成に極めて重要です。
1. 流産リスクの増加
妊娠中の女性の約20%は流産に苦しんでいます。喫煙、遺伝、加齢、重労働、肥満といった、多くのリスク要因があります。予防できるリスク要因を特定し、対処することは、この悲劇の回避に一定の効果をあげます。
ビタミンD不足は、女性の流産リスクを高める可能性があります。研究は、妊娠中の女性のビタミンDレベルは、カルシウムの必要性が高くない状態でも、妊娠初期の数週間で上昇することを示しています。この期間、活性型ビタミンDは、通常のレベルよりも最大3倍にまで上昇します。このような急上昇は、カルシウムレベルを危険な値まで引き上げてしまうため、妊娠中でない人にとっては有毒になります。 [2]
これは、カルシウム吸収に加えて、ビタミンDが妊娠初期にいくつかの役割を果たしている可能性があることを示唆しています。母体が胎児を拒絶しないよう、免疫反応を調節するためにビタミンDは必要であると考えられています。妊娠初期におけるビタミンDの潜在的な役割、および着床や流産に影響を与えるビタミンDレベルの研究は、これまでに多くなされてきました。
2018年に行われた最近の研究では、流産後に妊娠を計画し、「受胎前」に望ましいビタミンDレベルを有していた女性は、ビタミンDレベルが不十分な女性と比べ、ほとんどのケースで妊娠し、健康な出産をしたことが分かりました。研究はザ・ランセット・ダイアビティーズ&エンドクリノロジー内で発表されました。 [3]
興味深いことに、同研究では、妊娠8週目におけるビタミンDの状態は、流産とは関係がなかったとする報告もされています。この調査結果は以下のように説明されています。「受胎前における十分な25-ヒドロキシビタミンD(≥75 nmol/L)状態は、妊娠および生児出生の可能性と関連している。(妊娠初期ではなく)受胎前のビタミンD濃度の上昇は、流産リスクの軽減と関連している。」
妊娠中において、どの程度の量が望ましく健康的なビタミンDレベルになるのかは、依然よく分かっていません。しかし、妊娠を試みている女性にとって、健康的なレベルのビタミンDの摂取は流産リスクを軽減する重要な手段になり得るというのは、重要な洞察です。事実、日照ビタミンレベルの高い女性は、体外受精など生殖補助医療の成功率が高いことが、複数の研究で示されています。こちらも新しい研究の研究者によって報告されたものです。
2. 妊娠中の細菌性膣炎リスクの増加
細菌性膣炎は、妊娠可能年齢の女性にとって最も一般的な膣感染症です。
- 15歳から44歳の女性に影響する可能性が最も高い
- 細菌の過剰な増殖によって引き起こされる。これは、膣内に通常存在している、細菌の自然なバランスを崩壊させる。
- 膣分泌物の異常、悪臭、かゆみといった症状が出る場合もあれば、何も症状が出ない場合もある。
症状が出ないからといって、健康上影響がないという訳ではありません。無症候性の細菌性膣炎でも、早産や赤ちゃんの低体重といったリスクは増加します。ビタミンDが不足が細菌性膣炎を引き起こす可能性を示す証拠もありますが、この仮説を証明するにはさらなる調査が必要です。 [4]
しかし、ビタミンD補給が無症候性の細菌性膣炎を取り除くのに役立つ可能性があるという、注目に値する証拠があります。2015年に行われた研究で、研究者は以下のように結論しています。「ビタミンD不足の生殖可能年齢の女性達に対して、一日2000IUのビタミンD投与は無症候性の細菌性膣炎の除去に効果的であった。この治療法は、細菌性膣炎の症状や副作用の予防に有用である。」[5]研究者は、細菌性膣炎の予防または管理のために、ビタミンD不足の女性に同ビタミンの補給を推奨しています。
ビタミンDは体内の抗菌性タンパク質である、カテリシジンの生産を増加させます。その結果、生殖器の免疫性が改善されます。これはビタミンDが妊娠中の細菌性膣炎および関連するリスクの予防に有用となり得るメカニズムとなります。
3. 妊娠糖尿病リスクの増加
妊娠糖尿病は妊娠中にのみ発症し、通常は妊娠後期に起こります。その際、妊娠前は普通だった血糖値が妊娠中に高くなります。膵臓から放出されるホルモンであるインスリンが作れない、または使えないと、妊娠糖尿病は発症します。インスリンは、細胞が循環グルコースを使用し、それをエネルギーに変換するのに役立ちます。
妊娠中、胎盤は赤ちゃんの成長と発育をサポートするホルモンを作ります。しかし、母体においてこれらのホルモンはインスリンの作用に対抗し、血液中のグルコースレベルを上昇させます。血糖値は通常、出産後間もなく正常に戻りますが、妊娠糖尿病は母子共に合併症を引き起こすことがあります。これは以下のリスクを増加させます。
- 早産
- 帝王切開
- 母親が高血圧および子癇前症を発症
- 子供が通常よりも大きなサイズで生まれ(巨人症)、さらに呼吸困難になる可能性
- その後、母子共に2型糖尿病を発症
多くの研究では、妊娠中のビタミンD不足が妊娠糖尿病のリスク要因の一つであることが、多くの研究で報告されています。つまり、母体の低ビタミンDレベルは、妊娠糖尿病のリスクを増加させるのです。 [6] [7]
最近の系統的レビューおよびメタ解析によると、妊娠糖尿病を持つ女性は、正常な耐糖能を持つ女性と比べてビタミンDレベルが非常に低いことが分かっています。 [8] レビューでは、ビタミンDの有効な役割は複数のメカニズムに起因している可能性があることが説明されています。例えば、膵臓によるインスリンの正常な産生および分泌にビタミンDは必要です。インスリンは血流で循環するグルコースレベルを調節します。さらにビタミンDは、特に糖尿病患者の炎症を軽減し、インスリン抵抗性を向上させることでも知られています。
妊娠糖尿病の他、低ビタミンDレベルは他の分野でも悪い知らせをもたらします。例えば、2018年の研究では、ビタミンDレベルの低い人は糖尿病の発症リスクが高いことが報告されています。具体的には、ビタミンDレベルが30ng/ml以下の人は、レベルが50ng/ml以上の人と比べて、糖尿病を発症する可能性が5倍も高いことが研究で報告されています。 [9]
さらに、ビタミンDのサプリメントはレベル向上に役立ち、これにより2型糖尿病を患っているビタミンD不足の人のインスリンレベル、およびインスリン感受性の改善を促進することができると、研究は示しています。これらは、ビタミンDサプリメントが妊娠糖尿病を持つ女性の助けになり得るのと同じメカニズムです。
ビタミンD不足と妊娠糖尿病リスクの増加の関連性を示す証拠は十分にあります。同時に、ビタミンDサプリメントが妊娠糖尿病を予防することを証明するためには、無作為比較対照試験が必要です。妊娠女性のビタミンD欠乏検査は、この方向に向かう有用な手段になるでしょう。
4. 子癇前症リスクの増加
子癇前症は、妊娠中の女性に以下の症状が現れます。
- 高血圧を発症
- 尿のタンパク質レベルが高い
- 脚、足首から先、手に水が溜まり、腫れる
子癇前症は通常妊娠20週目以降に発症します。子癇前症は母子共に生命を脅かす危険性があるため、適時に検出し対処する必要があります。これは以下のリスクを増加させます。
- 子癇(妊娠中に発作を起こす高血圧)
- 母親の肝機能不全および血小板数の減少
- 早産
- 低出生体重児
糖尿病、高血圧の病歴、腎臓疾患、複数の赤ちゃんを妊娠している女性、家族に子癇前症および肥満の病歴を持つものがいるなど、複数の要因によって、女性の子癇前症発症リスクが増加します。さらに、ビタミンD不足は主なリスク要因であることが判明しています。
子癇前症を持つ女性は、同症状を持たない女性と比べて、ビタミンDのレベルが低いことが研究で示されています。ではビタミンDは子癇前症を予防することができるのでしょうか?ビタミンDの補給により子癇前症の再発を防ぐことができると、この研究は示しています。以下のように結論しています。「妊娠中のビタミンD補給療法は、妊娠高血圧症候群/子癇前症の発生率を低下させるのに役立つ。」 [10]
別の研究では、以前の妊娠中に子癇前症を発症した病歴を持つ患者にビタミンDサプリメントを使用することで、現妊娠中における子癇前症および子癇両方のリスクを軽減することができる、と示唆しています。 [11]
内皮機能不全、炎症といった複数の要因が、子癇前症の発症および進行において重要な影響をもたらしています。これらのリスク要因のいくつかにおいて、ビタミンDは重要な役割を担っています。以下はビタミンD効果の一例です。
- 血管機能を向上
- 血圧を下げる
- 免疫の調節
- 炎症の低下
ビタミンD不足は赤ちゃんの健康にも影響します。健康な骨と歯を赤ちゃんに作るために、妊娠中の女性は高いカルシウムレベルおよびリンレベルが必要です。ビタミンDはカルシウムとリンの吸収に役立つため、健康なビタミンDレベルが必要です。しかし最新の研究は、ビタミンDがカルシウム以外の機能にも必要であることを一貫して示唆しています。特に妊娠中、赤ちゃんの健康を守るために、考慮すべき重要な栄養素です。
ビタミンD不足は、発育中の胎児および新生児にとって、多くの健康問題の原因になり得ます。これは以下のリスクを増加させます。
- 低出生体重および胎内発育遅延児
- 骨の健康不良
- 若齢期における成長および発育不良
- 肥満
- 自閉症および自己免疫疾患
- 呼吸器疾患、喘息、喘鳴障害
妊娠は、非常に高いエネルギーと栄養を体に要求します。残念な妊娠結果を防ぎ、子供の健康を促進するためにも、これらの要求を満たすことは重要です。これに関連して、子宮内にいる子供の健康的な成長において、ビタミンDは非常に重要な役割を果たします。今後のブログ記事では、免疫、骨の発達、体重、そしてアレルギーといった面から、妊娠中のビタミンD不足がどのようにして新生児の健康に影響を与えるのかをお伝えしたいと思います。
翻訳者: 渡辺秀平
参照:
- Hollis et al. New insights into the vitamin D requirements during pregnancy. Bone Res. 2017
- Ganguly et al. Vitamin D, the placenta and early pregnancy: effects on trophoblast function. J Endocrinol. 2018
- Mumford, SL, et al. Association of preconception serum 25-hydroxyvitamin D concentrations with livebirth and pregnancy loss: a prospective cohort study. The Lancet Diabetes & Endocrinology. 2018
- Bodnar et al. Maternal vitamin D deficiency is associated with bacterial vaginosis in the first trimester of pregnancy. J Nutr. 2009
- Taheri et al. Treatment of vitamin D deficiency is an effective method in the elimination of asymptomatic bacterial vaginosis: A placebo-controlled randomized clinical trial. Indian J Med Res. 2015
- Lu et al. Association between vitamin D status and the risk of gestational diabetes mellitus: a meta-analysis. Arch Gynecol Obstet. 2016
- Zhang et al. Vitamin D Deficiency Increases the Risk of Gestational Diabetes Mellitus: A Meta-Analysis of Observational Studies. Nutrients. 2015
- Amraei et al. Effects of Vitamin D Deficiency on Incidence Risk of Gestational Diabetes Mellitus: A Systematic Review and Meta-analysis. Front. Endocrinol. 2018.
- Park et al. Plasma 25-hydroxyvitamin D concentration and risk of type 2 diabetes and pre-diabetes: 12-year cohort study. PloS One. 2018.
- Sasan et al. The Effects of Vitamin D Supplement on Prevention of Recurrence of Preeclampsia in Pregnant Women with a History of Preeclampsia. Obstet Gynecol Int. 2017
- Bakacak et al. Comparison of Vitamin D levels in cases with preeclampsia, eclampsia and healthy pregnant women. Int J Clin Exp Med. 2015
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