歯科衛生と心臓の健康 (SQ-96)
口腔衛生をないがしろにしていませんか?歯肉疾患の徴候と症状を見落とすと、代償は歯と歯茎だけでは済まないかもしれませんよ?歯肉疾患が心血管疾患、脳卒中、糖尿病のリスクを増加させる可能性があることはご存知でしたか?
歯肉疾患とは?
歯肉疾患とは歯の周囲の組織が炎症を起こすことです。口内の細菌が口の周りに粘着性プラークを形成することで発生します。最初は炎症を引き起こし歯茎を赤く腫脹させます。この歯肉疾患の早期段階は歯肉炎と呼ばれ、適時に治療を行わないと歯周炎と呼ばれるさらに重い症状に素早く進行します。この段階になると、歯茎が痛みを伴って出血し、歯から遠ざかり始めます。
歯周炎になると歯茎は歯から離れていき、隙間が生じ、その隙間は少しずつ大きくなっていきます。細菌はこれらの隙間に感染し、さらなる炎症や腫れを引き起こします。これはやがて歯周組織の崩壊、歯の喪失、さらには骨浸食までもを引き起こすことがあります。劣悪な口腔衛生、年齢、喫煙、糖尿病は歯肉疾患の発症リスクを増加させる主な要因です。
歯茎の状態が悪いと、発症するのは虫歯や歯周組織の崩壊のみに留まりません。体の慢性炎症を引き起こすこともあり、これは動脈血栓、心血管疾患、脳卒中、糖尿病、関節炎といった症状と関連しています。
今回の記事では、歯肉疾患と心臓疾患リスクの増加の関連性について調べてみようと思います。
では、どんな関連性があるのか?
歯周疾患はアテローム性動脈硬化症(動脈の肥厚および狭窄)、心臓発作、心血管の健康に関連するその他の問題と関与している可能性があります。複数の研究は、慢性的な歯肉疾患を患っている人は、健康な歯茎の人よりも心臓疾患になる確率が2倍高いことを示しています。
実のところ、口腔の健康は健康全体に反映されるため、炎症、心臓疾患、体内のその他多くの炎症症状の重要な指標として考慮すべきなのです。
しかし口腔の健康状態が悪いと、どのようにして心臓疾患リスクが増加するのでしょうか?その答えは、歯茎の炎症と、歯肉疾患の発症に関与する細菌にあるかもしれません。
口内の細菌と病原菌は、血流を通って体の他の部分へと移動することができ、炎症を引き起こす免疫反応を誘因します。例えば、これらの細菌が心臓に達すると、炎症および心内膜の感染症である心内膜炎を引き起こすことがあります。また慢性炎症は、アテローム性動脈硬化症(動脈血栓)、心血管疾患、脳卒中の発症および進行と強く関係しています。
免疫系が損傷したり、細菌やウイルスといった外来侵入者に対して反応すると炎症が起こります。免疫系は、白血球、タンパク質、酵素、および感染症を引き起こす微生物を破壊するさまざまなシグナリング分子といった兵隊を送ります。このプロセスは、損傷した組織を体が修復・治療するのにも役立ちます。赤み、痛み、腫れは、続く炎症反応の数少ない明確な徴候です。通常これらの徴候は、免疫系がそれらのトリガーを除去すると自然に消えます。この段階を急性炎症と呼び、一時的であることがほとんどです。
しかし、(慢性的なストレス、慢性感染症、化学物質への暴露、環境毒素など)手ごわいトリガーが存在する場合、体は戦い続けます。この時に慢性炎症は起こります。慢性炎症を患っている人は老化が早い可能性が高く、重い健康問題を発症しやすくなります。慢性炎症は、アテローム性動脈硬化症、心臓疾患、関節炎、白内障、パーキンソン病、2型糖尿病、ガンなど、多くの健康問題に関与しています。
歯周炎などの炎症症状がある場合、歯茎と歯の回りにできる深い隙間が細菌にとって格好の住処となり、そこで成長、繁殖します。これらの細菌は、放出する毒素や廃棄物と一緒に血流に乗ります。そして免疫反応を増加させます。これは、C反応性タンパク質といった体内における炎症の存在を示す多くの指標レベルを増加させます。
2010年のとあるレビュー記事は、歯周疾患と心血管疾患の潜在的なつながりを示唆し、以下のように結論しています。「
これまでに集められた科学的証拠から、外科的な歯周ケアは、口腔衛生だけでなく総合的な健康のためにも非常に重要であると思われる。」 [1]
2016年の別の研究でも、歯周疾患と冠動脈心疾患のリスク増加が関連している証拠を示しています。それは、歯周疾患は「炎症の悪化、凝固およびインスリン抵抗性の増加を引き起こす」と報告しており、これらの経路が、歯周疾患の患者がなぜ冠動脈疾患(CHD)リスク上昇をもたらすのかを説明するかもしれないと付け加えています。 [2]
長い間、炎症がアテローム性動脈硬化症の発症に関係があるとされてきましたが、ウーフ・ラヴンスコフ博士をはじめとする専門家は、感染細菌も原因の可能性があると考えています。彼はこう説明しています。「
心筋梗塞と脳卒中の死亡率は、インフルエンザの流行中に増加し、歯が感染した、もしくは血液に細菌が存在する人は、健康な人とくらべてより大きなリスクにある。さらに急性心筋梗塞、または脳卒中を患っているすべての患者の約三分の一が、発症直前に感染症を患っていた。」 [3]
歯肉炎や歯周炎といった口腔の状態は、体の炎症性ストレスを明らかに増加させます。そして、口腔細菌も血流を介して心臓組織に到達することができ、損傷部位に付着して心内膜炎(心内膜とも呼ばれる心臓の内層の感染症)を引き起こします。感染性心内膜炎はまれではありますが生命に関わる病状であり、歯に存在する細菌によって引き起こされることが多くあります。 [4]
その細菌は血管を損傷させることもあり、炎症を引き起こし、アテローム性動脈硬化症または動脈血栓を発症させます。これは、血餅、心臓発作、脳卒中のリスクを増加させます。複数の研究において、アテローム性動脈硬化症に罹患した血管内で、口腔細菌の断片が見つかっています。 [5] 歯周疾患を正しく治療することで、全身性炎症を軽減する可能性を示す証拠が複数あります。 [6]
歯肉疾患はその他の病気とも関係している
かつて歯肉疾患は、歯茎と歯に限られた合併症を伴うものであると考えられていました。しかしながら、口腔衛生不全が体全体の健康に影響することを示す新しい研究結果が増えてきています。複数の研究が、歯周炎が糖尿病、関節リウマチ、妊娠合併症に関連していることを示しています。
この縦断的コホート研究は、歯周疾患が狭心症、肥満、骨粗しょう症といった生活習慣病のリスクを増加させることを実証しました。 [7]
歯肉疾患と糖尿病
歯肉疾患と糖尿病は、双方向性の関係があるとされています。歯周炎は糖尿病の発症リスクを増加させ、さらには糖尿病患者の血糖値管理を困難にさせることもあります。事実、複数の研究によって、歯肉疾患を持つ人は健康な歯茎の人に比べて血糖値が高いことが示されています。また、歯肉疾患は一般的に糖尿病と関連している合併症リスクを増加させる可能性もあります。 [8]
一方で、糖尿病を患っている人は歯肉疾患を発症する可能性が高いです。糖尿病は歯肉炎、歯周炎の重篤度増加の重要なリスク要因であると考えられています。これは主に、血中の糖値上昇が炎症を悪化させ、全体的な感染症リスクを増加させるためです。複数の研究は、歯周疾患の治療が、糖尿病および歯周疾患両方の患者の血糖値管理に役立つ可能性があることを示唆しています。
歯肉疾患と妊娠合併症
歯肉疾患は、子癇前症(妊娠中の女性が高血圧になる状態)といった妊娠合併症とも関連しています。手や足の腫れといったその他の症状も起こります。複数の研究は歯周疾患を、早産や子供の低体重出産の可能性の高いリスクとしてみなすことができると示唆しています。 [9] これは、新生児の呼吸障害、肺疾患、黄疸といった合併症と関連しています。
妊娠中のエストロゲンやプロゲステロンといったホルモンレベルの変化は、歯肉疾患リスクの増加を引き起こすと考えられています。適時に歯の治療を行うことは、早産リスクの軽減に役立つ可能性があります。
歯肉疾患と関節リウマチ
歯肉疾患に存在する炎症性環境は関節リウマチ発症の役割を担っている可能性があります。 [10] [11] ポルフィロモナス・ジンジバリスはプラーク(歯垢)の形成および歯周疾患の発症に関わる主要な細菌です。歯周疾患は破壊自己免疫反応を引き起こす抗体の形成を誘発し、歯茎組織および滑膜関節組織の破壊を活発にします。
歯肉疾患の症状
以下に当てはまる場合は歯肉疾患です。
- 歯茎が赤い、腫れている、または柔らかい
- 歯磨き、フロス、または食事などでも歯茎から血が出る
- 歯茎が歯から後退している、または離れているように見える
- 長く続く口臭、または歯磨き・フロスの後でも口内に嫌な味が残っている
- 歯がグラグラする
- 歯茎と歯の間の膿
- 歯の周りの小さなポケット
いかにして歯肉疾患を予防するか?
歯肉疾患を予防する最善策の一つは、良い口腔衛生状態を常に維持することです。
- 歯磨き、フロスを一日に二回行う
- 歯垢を落とすために口内洗浄液を毎日使う
- 2~3か月おきに歯ブラシを取り換える
- 歯の掃除、歯科検診を定期的に行う
- 甘い食べ物、甘い飲み物、アルコール摂取を制限する
- 禁煙する
- 血糖値を管理する
- 歯肉疾患の早期徴候と症状を見逃さない
サプリメントは歯肉疾患の予防または治療に役立つのか?
体を元気に健康に維持するために、健康な食生活の役割を無視することはできません。口の健康ももちろん同様です。不十分な栄養は、酸化損傷および感染症や歯肉疾患を含む病気を引き起こす炎症と戦うために、体が必要な抗酸化サポートを欠いていることを多くの場合意味しています。
歯肉炎や歯周疾患などの歯茎の病気の効果的な管理の場合、
コエンザイムQ10はその他のサプリメントよりも優れています。コエンザイムQ10は、心臓の健康維持にも重要な役割を果てしています。
歯周疾患におけるコエンザイムQ10サプリメント
日本の多くの歯科医が、歯周疾患の治療にコエンザイムQ10サプリメントを推奨していることはよく知られています。これは強力な抗酸化物質で歯茎の炎症と腫れ、痛み、赤みなどの関連症状を軽減します。またコエンザイムQ10は、損傷を受けた歯茎を治療し、免疫を改善して歯茎の細菌感染症と戦います。
細胞はコエンザイムQ10を独自に生成し、酸化損傷との闘い、およびエネルギーの生産をサポートします。しかし、加齢とともに体のコエンザイムQ10の生成量は減っていきます。さらに、長引く感染症や慢性疾患を患っている場合、または化学毒素や重金属に定期的に暴露している場合、コエンザイムQ10の必要性はさらに高まります。さらにストレスも体のコエンザイムQ10を枯渇させます。
コエンザイムQ10は、心臓の健康をサポートするために摂取できる最も重要なサプリメントの一つであることも付け加えておくべきでしょう。コエンザイムQ10が、うっ血性心不全、虚血性心臓疾患、その他の心臓疾患などと強く関連している、酸化ストレスや炎症を軽減することを考慮すれば、当然のことです。
コエンザイムQ10サプリメントは、心不全を患っている人の生活の質を向上させ、その症状や、予想外の入院や手術のリスクをも軽減することが分かっています。さらにコエンザイムQ10サプリメントは、コレステロールレベルを下げるためによく処方される薬である、スタチンの副作用を軽減します。これは、スタチンの長期使用はコエンザイムQ10生成量を下げ、それによって筋疲労、筋肉痛を引き起こし、さらには心臓疾患リスクを増加させる可能性もあるためです。枯渇したコエンザイムQ10レベルを取り戻すことで、いくつかのリスクを和らげ、体を健康な状態に保つのに役立つ可能性があります。
要旨
新しい証拠によると、歯肉疾患は、歯茎の健康不全や歯茎の炎症以上の結果をもたらす可能性があることを示唆しています。口腔内の細菌および炎症は、全身の炎症を悪化させる上で重要な役割を果たしており、心血管疾患を引き起こすことで知られているリスク要因へとつながるとする、質の高い研究結果が複数あります。口の健康を維持し、歯肉疾患に関連する徴候と症状に対処することは、心臓疾患やその他の症状リスクの軽減に役立つ可能性があります。
コエンザイムQ10サプリメントを服用する前に、医師に相談してください。コエンザイムQ10は一般的に安全で耐容性も良好ですが、ワーファリン、糖尿病に使用する薬、ベータブロッカー、抗うつ剤など特定の薬に影響する可能性があります。またこのサプリメントは、そういった人工薬物療法への依存を軽減する可能性があることも考慮すべきでしょう。
翻訳者: 渡辺秀平
参照:
- Dhadse et al. The link between periodontal disease and cardiovascular disease: How far we have come in last two decades ? J Indian Soc Periodontol. 2010
- Mathews et al. Oral health and coronary heart disease. BMC Oral Health. 2016
- Uffe Ravnskov. The Real Cause of Heart Disease? part 3 of 4. Spacedoc
- Lockhart et al. Poor oral hygiene as a risk factor for infective endocarditis–related bacteremia. J Am Dent Assoc. 2009
- Mahendra et al. 16S rRNA-based detection of oral pathogens in in coronary atherosclerotic plaque. Indian J Dent Res. 2010
- Tonetti et al. Periodontitis and atherosclerotic cardiovascular disease: consensus report of the Joint EFP/AAP Workshop on Periodontitis and Systemic Diseases. J Clin Periodontol. 2013
- Lee et al. Association between periodontal disease and non-communicable diseases. Medicine (Baltimore). 2017
- Mealey et al. Diabetes mellitus and inflammatory periodontal diseases. Current Opinion in Endocrinology, Diabetes & Obesity 2008
- Soroye et al. Association between periodontal disease and pregnancy outcomes. Odontostomatol Trop. 2015
- Linda Peckel. Bi-Directional Links Between Rheumatoid Arthritis and Periodontal Disease. Rheumatology Advisor. 2017.
- Bingham et al. Periodontal disease and rheumatoid arthritis: the evidence accumulates for complex pathobiologic interactions. Curr Opin Rheumatol. 2013
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