ダンスは脳に良いのか?(SQ-94)
「人生は、私たちが望んでいたパーティとは違うかもしれない。しかし、ここにいる間は踊るべきだ!」 - 作者不明
ダンスフロアで踊るなんてとても楽しそうですが、実はダンスはあなたの体と心にも大きな健康効果をもたらすのです。通常のダンスはカロリーを燃焼し、筋力と持久性を向上させ、健康な骨を維持し、ストレスをやっつけるのに役立ちます。
そして、ほとんどの身体運動同様、ダンスフロアでくるくると回ることも、心臓疾患、メタボリックシンドローム(代謝症候群)、2型糖尿病の発症リスクを下げる可能性があります。
しかし、ダンスにはこれらのよく知られた体への効果以上に、さらに多くの効果があるのです。それは、脳の健康にも良いということです。事実、多くの人にとってダンスはまさに瞑想と同じで、心を落ち着かせ、前向きな思考で満たす行動なのです。ダンスは身体的、精神的、感情的な健康に対してそのような素晴らしい力を持っており、体と心と精神をつなげると信じられています。
今回は、ダンスはどのようにして脳に良い影響をもたらすのか、どのようにして精神的機能を向上させるのかについて、見ていきたいと思います。最近の調査は、ダンスが脳を加齢性減退から保護し、高齢者の生活の質を向上し、若者の健康および彼ら自身に対する気持ちを向上させることを強調しています。研究によって、ダンスはパーキンソン病を患う方の可動性やうつ病といった症状を改善することがあるということすらも分かっています。
もっと言えば、ダンスは単調な運動よりもずっと楽しく魅力的です。その結果、活動的に、元気になるために、型のあるダンスをするようになります。そして、長く続けようとやる気も出てきます。
ダンスと脳の健康
ダンスは、身体的、認知的、社会的要素の組み合わせであり、それらがさまざまなレベルで連携して、認知力などを含むあらゆる種類の健康効果をもたらします。
1. 老化の影響から脳を守る
老化は脳容積の減少を引き起こし、認知機能の低下へとつながります。ダンスは脳内の加齢性減退を防ぐことができるのでしょうか?ダンスは老化の兆候を逆行させるのに役立つ可能性があるようです。これは、ダンスが神経可塑性(人生を通して変化・成長する脳の能力)に強力な影響をおよぼすことができるのと関係があります。
新しい言語、新しいダンスの型、楽器など、何か新しいことを覚える時、脳の構造は変化します。すべての新しい経験、あたらしいスキル、または新しい考えですら、新しい脳細胞を生み出し、新しい神経経路を形成することができるのです。
新しい神経連絡を作り、重要ではないもの、もう使わないものを取り除くことで、環境変化、新しい記憶や経験に適応するために脳は自身を再配線し続けます。
私たちは歳を取るにつれ、思考や行動がどんどん定着していきます。これは脳細胞および神経連絡の損失につながります。成長するにつれ、脳は自身を再形成する、再配線する能力を失っていくのだと以前は考えられていました。しかし新しい調査では、加齢する脳は自身を作り変える大きな能力を持っているとしています。必要なのは、新しい経験をする、ダンスの型など新しいことを学ぶなどして、新しい神経連絡を作り出すよう脳に十分な刺激を与えること、それだけです。
2018年に行われた最近の研究では、特別に作られたダンスプログラムが、健康な高齢者グループの脳構造および機能に与える影響についての調査が行われました。参加グループの一つには、新しい振り付けや複雑な動きのパターンを取り入れたダンスプログラムが割り当てられ、参加者には絶えず学習チャレンジが課されました。別のグループには、反復運動を取り入れた標準的なフィットネストレーニングプログラムが割り当てられました。
この研究で判明したことは以下です。
- ダンスプログラムの参加者は、ワーキングメモリ(作業記憶)、実行機能、注意力、その他の認知機能に関わる脳の部分において、体積が(灰白質および白質両方)大きく増加した。
- 6か月のダンストレーニングによって、記憶と関連する脳の部分において灰白質の体積が増加する結果となった。同部位はアルツハイマー病において早期に悪化する部分である。
研究者は以下のように結論しています。「私たちの見解では、空間定位、運動協調性、バランス、持久性、相互作用、コミュニケーションといった、数々のプロセスをダンスは同時に促進するという事実によって、ダンスが人間の脳に与えるより顕著な効果を説明することができる。さらに、参加者に新しい振り付けを提示することにより、私たちのプログラムは、一定の学習プロセスを誘発した。」 [1]
フロンティアズ・イン・ヒューマン・ニューロサイエンス(人類神経科学の最先端)誌で発表された別の研究では、ダンスが脳の老化兆候を逆行させる可能性が示されました。脳の加齢性減退は認知機能障害とバランス不全を引き起こします。研究では、ダンスと持久性トレーニングは共に脳の老化兆候を逆行させることができる一方で、ダンスがより効果的であったことが示されました。
これらの両方の活動は、海馬(長期記憶、学習、空間進行、バランスを司る脳の一部)の灰白質を増加させます。しかしこの増加は、ダンサーにより多くみられました。また、彼らはバランスにおいても顕著な向上を示しました。研究者は、この違いは、絶えず変化するダンスの型によってもたらされる更なるチャレンジが原因である、と結論付けました。 [2]
この研究の筆頭著者であるリーフェルド博士は以下のように述べています。「独立した健康的な生活をできるだけ長く送りたいと、誰もが願っています。身体活動はこれに貢献し得る生活要因の一つで、複数のリスク要因を中和し、加齢性減退のスピードを落とします。ダンスは、特に高齢の方には、体と心に新しいチャレンジを課す強力なツールと考えます。」 [3]
2. ダンスとパーキンソン病
パーキンソン病は、脳内の神経細胞から他の細胞へ信号を送る化学的メッセンジャーである、ドーパミンを生成する脳細胞が失われてしまう神経変性障害の一つです。ドーパミンは最も重要な神経伝達物質の一つで、身振り、会話、記憶、気分、学習、モチベーション、知覚、認知、他にも数多くある体内の重要な機能を調節します。パーキンソン病の症状には、筋肉強直、平衡および協調問題、動きが遅くなる(動作緩慢)などが含まれます。
パーキンソン病は、運動スキル(動きに関連する)と非運動スキルの両方に影響を及ぼします。この障害を持った方は、動きの喪失およびバランス不全に加え、睡眠障害、うつ病、記憶障害、認知能力障害なども経験し、これらは生活の質の低下につながります。さらに筋肉強直と平衡障害は、転倒のリスクを増加させます。研究は、身体運動を行うことは、筋力、バランス、および生活の質全体の向上に役立つことができると示唆しています、しかし問題は、運動プログラムはあまり魅力的ではなく、患者は定期的に参加する気にならないため、あまり長続きしないということです。
研究は、ダンスは以下を含む数々のパラメーターを向上させ、パーキンソン病患者の役に立つことを示しています。 [4] [5] [6] [7]
- バランス
- うつ病
- 機能的運動性
- 日々の活動を行う能力
- 患者および介護者の生活の質
- 運動および非運動症状両方の重篤度
- 四肢硬直、運動スキル、表情
ある研究は、以下のように結論しています。「パーキンソン病患者を動かさせることは非常に困難であるとしばしば考えられており、多くの理学療法やリハビリプログラムもわずかな成功例しかない。パーキンソン病患者とその介護者のために、講師付きでダンスクラスを毎週行うことは、患者を活動的にするのには強力な方法である。すなわち、ダンスはパーキンソン病患者の可動性と健康を向上させるには非常に効率的な活動である。」 [6]
3. ダンスはストレスを軽減する
すべての身体活動同様、ダンスも体を刺激して、体内に多くの良い効果をもたらすエンドルフィンを放出させます。
- 痛みの軽減
- ストレス軽減
- 自尊心の向上
- 前向きな感情を誘発
- 睡眠の質の向上
- 幸福感の向上
- リラックスし、楽な気持ちにさせる
さらにダンスは社会的なつながりに役立ちます。ダンスは人と社会的につながるとても強力なツールであり、幸せな気持ち、前向きな気持ちを促進します。
子供は感情を内側に向けがちですが、ダンスはそういった内面型問題を抱えた思春期の女性に、前向きな考えや自信を与える可能性があることを示しています。最近の調査で、昨今の若い女性は、精神的健康問題の発症リスクがより高いことが分かっています。内面型問題を抱えた若い女性は、憂うつな気分、低い自尊心、不安、神経過敏といった症状を持っていることがよくあります。彼女たちは、頭痛、疲労、腹痛といった身体的症状も訴えています。
2016年の研究では、ダンスは内面型問題を抱えた若い女性に前向きな気持ちを与えることができると示しました。 [8]
- 自由を感じる
- 彼らの能力に対する信頼感の向上
- 寛容さと自信をもって生活に取り組む能力の向上
同じ研究者が2013年に行った別の研究では、思春期の女性は、ダンスの後は自身の全体的な健康に対してよりよく感じられたことが分かりました。研究者は以下のように結論しています。「内面型問題を持つ思春期の女性に対して、8か月間のダンス療法は、主観的健康感を改善させることができる。この改善は、療法後1年間続いた。」 [9]
4. ダンスは認知症を防ぐ可能性がある
認知症の進行は、思考、記憶、問題解決、推理、注意を払うといった、認知機能の欠如を伴います。これは、神経細胞が互いのつながりを失い、伝達を止めた時に起こります。アルツハイマー病は、高齢者において最も一般的な認知症要因です。
「ニュー・イングランド・ジャーナル・オブ・メディスン」誌にて発表された21年におよぶ研究で、レジャー活動は、アルツハイマー病および血管痴呆の両方に対して認知症リスクを軽減することが分かりました。 [10]
研究者は、読書、ダンス、クロスワードパズル、水泳、自転車、ゴルフなど、認知活動と身体活動の両方の役割を調べました。そして、読書、ボードゲーム、楽器の演奏、ダンスが認知症リスクを軽減したと報告されました。興味深いことに、このリスクの軽減において、ダンスはその他の認知活動よりもうまくいきました。ダンスは複数の脳機能(音楽、新しいステップの学習、感情、身体的な触れ合い)が同時に含まれており、新しい神経連絡を生み出します。
その他のダンス健康効果
精神的健康への効果に加え、ダンスは身体の健康にも大きな効果をもたらします。
- エネルギーレベルの向上
- 心臓疾患のリスク軽減
- 減量に役立ち、肥満を予防する
- 筋力、柔軟性、持久性、バランスの向上
- 丈夫な骨の維持に役立ち、骨粗しょう症リスクを軽減する
翻訳者: 渡辺秀平
参照:
- Rehfeld et al. Dance training is superior to repetitive physical exercise in inducing brain plasticity in the elderly. PLoS. 2018.
- Frontiers. "Dancing can reverse the signs of aging in the brain." ScienceDaily. ScienceDaily, 25 August 2017.
- Rehfeld et al. Dancing or Fitness Sport? The Effects of Two Training Programs on Hippocampal Plasticity and Balance Abilities in Healthy Seniors. Frontiers in Human Neuroscience, 2017.
- Delabary et al. Effects of dance practice on functional mobility, motor symptoms and quality of life in people with Parkinson's disease: a systematic review with meta-analysis. Aging Clin Exp Res. 2018
- Duncan et al. Are the effects of community-based dance on Parkinson disease severity, balance, and functional mobility reduced with time? A 2-year prospective pilot study. J Altern Complement Med. 2014
- Heiberger et al. Impact of a weekly dance class on the functional mobility and on the quality of life of individuals with Parkinson's disease. Front Aging Neurosci. 2011
- Blandy et al. Therapeutic Argentine tango dancing for people with mild Parkinson’s disease: a feasibility study. Front. Aging Neurosci. 2015
- Duberg et al. “I feel free”: Experiences of a dance intervention for adolescent girls with internalizing problems. Int J Qual Stud Health Well-being. 2016
- Duberg et al. Influencing Self-rated Health Among Adolescent Girls With Dance Intervention. JAMA. 2013
- Verghese et al. Leisure Activities and the Risk of Dementia in the Elderly. N Engl J Med 2003
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