クルクミンと腫瘍 (SQ-100)
がんは今日世界で最も恐ろしい病気の一つです。これは正常細胞を止めどなく成長・分裂させる遺伝子突然変異によって引き起こされます。通常、細胞はさらに多くの細胞を生産するために分裂し、これにより私たちは成長・発達することができます。またこれらの新しい細胞は古い傷ついた細胞と入れ替わります。
しかし細胞はある一定数までしか分裂せず、それ以降は死んでしまいます。この組織化されたプロセスが遺伝子突然変異によって損傷を受けると、細胞は制御不能のまま分裂を続けます。これらの急速に分裂していく細胞は、良性または悪性の腫瘤を形成することがあります。悪性腫瘍は転移し、組織や器官を破壊します。
遺伝子突然変異の原因となるがんは、遺伝することもあれば出生後に発症することもあります。事実、ほとんどの遺伝子突然変異は遺伝ではなく、喫煙、慢性的なストレス、ウイルス、特定の感染症、不健康な睡眠パターン、食事に含まれる化学物質、肥満、アルコールの過剰摂取、運動不足、電離放射線や環境汚染物質への暴露といった、外部要因によって引き起こされます。
これらほとんどの要因は細胞に酸化損傷を引き起こし、慢性炎症をもたらします。これは、現代において私たちが知っているすべての加齢性変性疾患の主な原因です。
異なるタイプのがんを治療するために約150の抗がん剤がありますが、これらの効果は重い副作用によって台無しになってしまいます。放射線療法や化学療法といった従来の積極的がん治療はこれらの重い副作用と関連しています。例えば化学療法は、骨髄、消化管、消化管、肝臓、腎臓に損傷を与えます。これは、体重の減少、食欲不振、免疫低下、免疫の弱体化、エネルギーの欠乏、脱毛などにつながります。さらに、抗がん剤の長期使用はがん細胞に耐性を生じさせることすらあります。これらの薬は健康な細胞に続発性腫瘍を誘発させることでも知られています。
患者と医師が共に患者の生活の質に悪影響を及ぼすことのない、より良い、より安全な抗がん治療を探し求めるのも無理はありません。この点に関して、天然化合物は、がん細胞に対する炎症・毒性の軽減におけるその役割、また安全性プロファイルが広く研究されてきています。
ウコン(ターメリック)という香辛料が由来のポリフェノール、クルクミンは、強力な抗酸化物質、抗炎症物質、抗がん特性を持つ天然薬として急速に話題になっています。
代替がん治療としてのクルクミン
さらなる調査は必要ですが、小規模な臨床研究によれば、クルクミンはさまざまなタイプのがんとの闘いにおいて効果的になり得ることが示唆されています。また、化学療法や放射線療法といった従来のがん治療の効果を向上させ、一方でその副作用を軽減させることも分かっています。
代替がん治療としての可能性は、炎症を抑制し、体内の抗酸化力を向上させるその能力によるものです。またこれらの動きはクルクミンを、心臓疾患、関節炎、うつ病、糖尿病、メタボリックシンドローム(代謝症候群)、認知症、アルツハイマー病といった、その他多くの慢性症状に対処する強力な天然物質にします。
とあるレビューは以下のように記しています。「現在までに、100以上のクルクミンを使った異なる臨床試験が行われてきた。これは、クルクミンの安全性、耐容性、さらにヒトのさまざまな慢性疾患に対する有効性を明白に示している。」 [1]
抗がんのメカニズム
がん細胞の増殖を引き起こすプロセスは多くあります。これらのプロセスは、さまざまな遺伝子の発現、およびシグナル経路や炎症分子の活性化と関係しています。これら複数の標的をターゲットとすることのできる物質が、がんの予防および治療に有効に使うことができるのはこのためです。
複数の研究が、クルクミンは多数のメカニズムを介してがんと闘い、がん細胞の成長・分裂を止める働きをする可能性があるとしています。最も重要なことは、クルクミンは体内の炎症負担を軽減するということです。
- 細胞のがん化、進行、浸潤、転移を抑制。
- がん細胞のプログラム死を誘発するアポトーシスシグナル経路を活性化。これによりこれらの細胞は自然に死滅する。
- 幅広い転写因子(NF-κB/核内因子カッパB)、成長因子、炎症性サイトカイン、酵素を下方制御することで炎症を軽減。炎症を抑制する最も重要なメカニズムの一つは、炎症、免疫反応、細胞増殖の調節に関与する遺伝子を抑制するタンパク質群、NF-κBをブロックすること。NF-κBシグナル経路の異常活性は、がんを含む多くの炎症性疾患と関与している。
- 化学療法、放射線療法の副作用を軽減
- 免疫系が自身でがん細胞を見つけ出し殺す際のサポート
- 体の抗酸化状態の向上。クルクミンは、スーパーオキシドディスムターゼ(SOD)、グルタチオンペルオキシダーゼ(GSH)、グルタチオン、カタラーゼといった抗酸化酵素系のレベルを向上させる。
2018年のリポートは以下のように結論しています。「クルクミン(CUR)の抗がん促進効果は、細胞の成長、血管新生、転移を抑え、さまざまながんのタイプにおけるアポトーシスを誘発するその能力に大きく起因する。さらに、CURと従来の化学療法剤および放射線療法の併用療法の好影響は、後の研究主題として考慮されるべきであり、がん治療において効果的介入の新たな機会を開くだろう。」 [2]
クルクミンは化学療法の効果を向上させる
クルクミンががんと闘う方法の一つが、その強力な抗炎症効果、および細胞のがん化や発生に関与しているさまざまなシグナル経路と酵素を調節する能力を介する方法です。
クルクミンが機能するもう一つの重要な方法は、化学療法剤の効果を向上させることです。複数の研究は、クルクミンががん細胞を抗がん剤に効きやすくし、一方でその副作用を最小化することを示しています。
臨床診療において、クルクミンはシスプラチン、カルボプラチン、5-フルオロウラシル(5-FU)、ゲムシタビンといった抗がん剤と広く併用されています。この組み合わせの効果は、肺がん、乳がん、結腸がん、膵臓がん、胃がん、肝臓がん、前立腺がんといったさまざまなタイプのがんで見られます。 [3]
クルクミンは化学療法増感剤としていかに機能するのでしょうか?多くの経路、酵素、炎症分子をターゲットにする一方、転写因子NF-κBを抑制するクルクミンの能力は、ここで最も重要なメカニズムの一つであると考えられています。
ドセタキセル(化学療法剤)とクルクミンの組み合わせは、進行性および転移性乳がん患者に使用されてきました。非常に小規模な研究ではありますが、ほとんどの患者に改善が見られ、研究者はクルクミンの推奨摂取量を「標準摂取量のドセタキセルと組み合わせ、一日6000 mgを3週間毎に7日間連続して投与する。」と定義することができました。 [4]
ドセタキセルとクルクミンの組み合わせは、去勢抵抗性前立腺がんにおける効果の可能性も示しました。 [5]
クルクミンは、異なるタイプのがんと闘うのに使用される強力な薬、マイトマイシンCの効果を向上させることが分かっています。クルクミンはがん細胞をマイトマイシンCにより効きやすくします。また、マイトマイシンCの長期使用は腎臓の永久損傷、骨髄の損傷を引き起こすことで知られており、クルクミンはこの抗がん剤の副作用を軽減します。長期の使用は正常細胞における続発性腫瘍をも引き起こします。 [6]
2010年の研究では以下のことが分かっています。「クルクミンとマイトマイシンC(MMC)による治療は、細胞生存性の著しい用量依存的な増加、および脂質過酸化、DNA損傷の減少をもたらした。これは、抗がん剤マイトマイシンCに対するクルクミンの保護機能を示している。」 [7]
従来のがん治療と併用して使われた際、クルクミンは慢性骨髄白血病(CML)においても結果の改善をもたらしました。 [8]
放射線増感特性および放射線防護特性
クルクミンは放射線療法に対する保護も行い、一方でがん細胞への放射能効果も向上させます。
放射線療法を受けた約95%の乳がん患者が放射線皮膚炎を起こしています。とあるランダム化二重盲検プラセボ対照臨床試験において、クルクミンが放射線療法によって引き起こされる肌への損傷を軽減することが分かりました。その研究は以下のように結論しています。「放射線療法中、毎日6.0 gのクルクミンを経口摂取することで、乳がん患者における放射線皮膚炎の重篤度が減少した。」 [9]
他の予備研究では、クルクミンが前立腺がん患者を放射線療法によって引き起こされる副作用から保護できることが分かりました。放射線療法は急性尿閉を含む広い範囲の副作用を引き起こすことがあります。これは、膀胱頚部や前立腺およびその他の構造内における炎症や粘膜の損失によるものです。
ご存知の通り、クルクミンは強力な抗炎症および抗酸化化合物です。この研究では、一日3 gのクルクミン補給が放射線療法によって引き起こされる排尿症状の重篤度を軽減し、前立腺がん患者の生活の質を向上させました。 [10] しかし留意しなければならないのは、クルクミンは腸の症状といったその他の放射線が誘起する副作用の重篤度は軽減できなかったということです。
低バイオアベイラビリティ(生物学的利用能)によって損なわれるクルクミンの抗がん効果
クルクミンは、がんと闘う天然化合物として広く研究されています。すべての小規模研究および予備研究から、クルクミンががん細胞のさらなる増殖防止に役立つだけでなく、化学療法や放射線療法といった従来のがん治療の効果を向上させる多くの特性を有していることは明かです。
クルクミンは特に肺がん、乳がん、前立腺がん、子宮頸がん、肝臓がんといった多くの種類のがんに効果的になり得ると複数の研究が示しています。これらすべての証拠があるにもかかわらず、研究者は未だ人体研究において期待される結果を再現するに至っていません。クルクミンの抗がん効果は、乏しいバイオアベイラビリティおよび難溶性によって損なわれると考えられています。これが、生体内研究においてクルクミンが望ましい結果が出せていない主な理由です。
- 高代謝と低バイオアベイラビリティ:体は、食事からもサプリメントからも多くのクルクミンを吸収することができない。すぐに分解されてしまい、また素早く体から排除されてしまう。吸収とバイオアベイラビリティを向上させるために、ピペリン入りの口腔クルクミンサプリメントを摂取することは可能。しかし、ピペリンの長期使用は副作用を引き起こすことがある。
- クルクミンは脂溶性。
なぜリポソームクルクミンなのか?
研究者はバイオアベイラビリティの課題を克服するために、固体分散剤、ミセル、マイクロエマルション、リポソームを含むすべての種類の薬物送達システムを調べました。
2017年のとあるレビューは、リポソームクルクミンとそのがんへの適用に光を当てました。レビューにおいて、クルクミンのリポソーム製剤は、非常に効果的なクルクミンの送達方法を提供し、優れた抗がん効果を発揮することが指摘されています。言い換えるならば、リポソーム送達は抗腫瘍効果を高め、がん細胞を破壊するのに必要な用量を減少させるのです。すなわち、望まれる健康結果を得るためにクルクミンを極端に高用量摂取する必要がないということです。これにより痛みや腫れの軽減、または心臓疾患や糖尿病リスクを軽減する可能性があります。
このレビューは「リポソームクルクミン(CUR)製剤は、がん細胞に対して大きな増殖阻害性、およびアポトーシス促進効果を有している」と指摘しています。さらに以下のように結論しています。「クルクミンとリポソームの組み合わせは、安定性、バイオアベイラビリティ、標的性、クルクミンの抗がん効能を高める。」 [11]
リポソームはユニークな二重球体構造をしており、脂溶性と水溶性両方の薬と栄養素を運ぶのに使用することができます。これは標的細胞に直接運ばれます。リポソーム製剤はバイオアベイラビリティと吸収を向上させるだけでなく、カプセル化された薬剤の安定性をも保護します。
これまでのところ、この分野の複数の予備研究は、クルクミンががんと闘うのに効果的な天然化合物であることを示しています。事実、その強力な抗酸化・抗炎症特性によって、クルクミンはその他多くの症状に有用であることが分かっています。
- 心臓疾患における重要なリスク要因である炎症の軽減
- 内皮機能の向上
- 関節炎における痛みおよび関節機能の軽減。この症状を緩和させる抗炎症物質よりも効き目がある可能性がある。
- インスリン抵抗性を向上させ、すでに高いリスクにある人の糖尿病リスクを下げる可能性がある
- 放射線被曝による細胞損傷およびDNA損傷を軽減
- 高齢者の認知症およびうつ病リスクを軽減
- 喫煙による損傷を軽減し肺の健康を保護する
- 脳の炎症を低下させ、アミロイドベータプラークの蓄積を防ぐため、アルツハイマー病に対しても効果がある可能性がある(特徴的なアルツハイマー病)。
クルクミンがあなたの健康全体をサポートすることは明らかです。主に酸化損傷や炎症によって引き起こされる多くの慢性症状リスクを予防するために、栄養補助食品としてリポソームクルクミンを摂取することもできます。
翻訳者: 渡辺秀平
参照:
- Kunnumakkara et al. Curcumin, the golden nutraceutical: multitargeting for multiple chronic diseases. Br J Pharmacol. 2017
- Wojcik et al. Molecular Mechanisms Underlying Curcumin-Mediated Therapeutic Effects in Type 2 Diabetes and Cancer. Oxidative Medicine and Cellular Longevity. 2018.
- Kumar et al. Molecular mechanisms underlying chemopreventive potential of curcumin: current challenges and future perspectives. Life Sciences. 2016.
- Bayet-Robert et al. Phase I dose escalation trial of docetaxel plus curcumin in patients with advanced and metastatic breast cancer. Cancer Biology & Therapy. 2010.
- Mahammedi et al. The new combination docetaxel, prednisone and curcumin in patients with castration-resistant prostate cancer: a pilot phase II study. Oncology. 2016.
- Zhou et al. Curcumin improves MMC-based chemotherapy by simultaneously sensitising cancer cells to MMC and reducing MMC-associated side-effects. Eur J Cancer. 2011
- Siddique YH et al. Assessment of cell viability, lipid peroxidation and quantification of DNA fragmentation after the treatment of anticancerous drug mitomycin C and curcumin in cultured human blood lymphocytes. Exp Toxicol Pathol. 2010
- Ghalaut et al. Effect of imatinib therapy with and without turmeric powder on nitric oxide levels in chronic myeloid leukemia. J Oncol Pharm Pract. 2012
- Ryan et al. Curcumin for radiation dermatitis: a randomized, double-blind, placebo-controlled clinical trial of thirty breast cancer patients. Radiation Research. 2013.
- Hejazi et al. A pilot clinical trial of radioprotective effects of curcumin supplementation in patients with prostate cancer. Journal of Cancer Science & Therapy. 2013
- Feng et al. Liposomal curcumin and its application in cancer. Int J Nanomedicine. 2017
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