クルクミンと脳の健康 (SQ-107)
その他の構体系同様、脳も加齢と共に変化していきます。物忘れが多くなって、注意力が欠如したり、人の名前が思い出せなくなったり、新しいことを覚るのも苦労するようになります。時には複数のタスクを同時にこなすことすら難しくなってしまうかもしれません。こういった認知能力の低下は、年齢を重ねる毎に増えていきます。
しかしながら、脳の健康をサポートし、加齢性神経変性の進行を遅らせるためにできることは多くあると数々の研究が示しています。禁煙、十分な身体運動、健康的な食生活、文章を読んだり、精神的刺激のためにクロスワードパズルを解くなどは、脳を長い間健康に、正常に機能させるために出来ることのほんの一例です。事実、ハーバード・ヘルス・パブリッシングによれば、新しく刺激的な活動に参加することは、これらの健康維持の他、新しい認知能力を築くのにも素晴らしい効果があります。
その証拠は、クルクミンやレスベラトロールなどの植物性化合物が持つ、脳の健康をサポートし、脳の変性や認知能力の低下を引き起こすプロセスの進行を遅らせる効果によって裏付けられています。これは、炎症の軽減におけるそれら植物性化合物の役割に依るところが多いと考えられています(高齢で認知機能障害を引き起こす主な原因の一つが炎症です)。
クルクミンは、香辛料のウコン(ターメリック)に含まれている生理活性化合物の一つです。ポリフェノールはウコンに強い黄金色を与えており、これはウコンが数々の健康効果を持つ主な理由である可能性があります。
クルクミンまたはウコンが最新のスーパーフードであると思われている方もいらっしゃるかもしれませんが、これらは機能性医学の世界においてはまったく新しいものではありません。アーユルヴェーダ医学および中国伝統医学の両方においてこれらは奇跡の香辛料であると考えられており、関節痛、肝障害、消化器系の健康不良などを含む、様々な慢性症状の治療に、文字通り何千年にもわたって伝統的に使用されてきました。
この化合物に関する調査は数多く行われており、心臓疾患、内皮機能不全、2型糖尿病およびインスリン抵抗性、放射線損傷、関節炎といった数々の症状におけるその有用性が示唆されています。
クルクミンは本当に老化の影響から脳を保護することができるのでしょうか?クルクミンと脳の健康の科学について詳しく見てみましょう。
クルクミンの抗酸化能力および抗炎症能力
様々な健康問題に対処するためにクルクミンが使用される理由は、体内の酸化損傷および炎症を軽減するその能力にあります。
「炎症」について様々なことを聞いたことがある方もいらっしゃるかもしれません。生活習慣、食生活、抗酸化物質サプリメントなどを通じた、自然な炎症管理方法に関する情報は数多く出回っています。体内の長期にわたる炎症はほぼすべての慢性疾患と強く関連しているため、これらすべての誇大広告は理にかなっています。
通常のケースでは、炎症は決して悪いものではありません。短期の炎症は健康の証であり、感染症や怪我と戦い、回復するためにはむしろ必要な反応なのです。これは体を保護し、修復し、癒します。
反対に警戒すべきは慢性炎症です。慢性炎症は体の早期老化を促進し、器官の損傷を引き起こし、主に高齢者に影響を与える健康問題をもたらします。
これは、フリーラジカルの過剰生成が細胞や組織に酸化損傷を与えた際に始まります。組織はそのエネルギー所要量のために酸素を必要としています。このプロセスもまた、(不対電子を伴う分子である)フリーラジカルの生成を引き起こし、これにより細胞は損傷を受けます。毒素や化学物質への連続暴露、喫煙または慢性感染症や疾患との闘病といった外部要因もまた、フリーラジカルの源となります。
全身性炎症はいかにして脳の健康に影響を与えるか
酸化損傷や炎症はすべての組織や器官にとって有害になります。しかし、脳は特に慢性炎症によって引き起こされる損傷の影響を受けやすいです。脳は全体重のわずか2%の重さしかありませんが、激しいエネルギー需要をサポートするために体の酸素予備の20%以上を消費します。神経細胞が連絡し合うために合図を送るのを促進するため、脳細胞の健康を維持するため、また脳内で起こる数多くのプロセスをサポートするために、脳は高いエネルギーレベルを必要としています。しかし酸素消費が多くなると、脳細胞の酸化損傷や炎症に対する影響が大きくなります。
脳の慢性炎症は脳の健康に以下のような様々な形で影響を与えます。
- 脳内のエネルギー生成を低下させ、神経細胞が連絡し合うのを促進する電気インパルスを遅くする
- 脳が持つ脳細胞を再生させる能力(脳または神経の可塑性)を害する。脳は内的および外的変化に対応するためにその機能と構造を変化させ続ける。
- 血液脳関門(BBB)の完全性を害し、全身毒性および炎症性化学物質に対して透過性にする。血液脳関門の透過性はアルツハイマー病などの症状において重要なピースの一つである。 [1]
- セロトニンなど重要な神経伝達物質(脳化学物質)のレベルを下げる。これはうつ病、不安、記憶障害などを引き起こすことがある。
脳の慢性炎症は、ブレイン・フォグ(脳機能の低下)、うつ病、不安、記憶喪失、疲労といった症状を引き起こします。また、アルツハイマー病や脳卒中など深刻な神経疾患をもたらすことがあります。
クルクミンはこれらに有効なのでしょうか?これらの問題点を対象としているのでしょうか?
クルクミンは酸化ストレスや炎症と闘う強力な能力を有しています。複数の前臨床試験および小規模な臨床試験により、クルクミンが神経変性から脳を守り、うつ症状を改善させ、脳の可塑性を誘発させることがわかってきました。
アルツハイマー病におけるクルクミン
脳の異常な炎症反応は、アルツハイマー病、パーキンソン病、うつ病などの脳疾患および精神疾患と強く関連しています。神経炎症は、外傷、重金属への暴露、感染症によって引き起こされます。
アルツハイマー病は認知症の主な原因であり、これは思考、学習、記憶、論理的思考、決断、挙動などに影響を与えます。アルツハイマー病患者は、神経細胞と脳の神経細胞内の神経原線維変化の間に蓄積されるアミロイドプラークが増加します。
アミロイドプラークはベータアミロイドと呼ばれる異常タンパク質の群または集合体で、これは神経細胞間の繋がりを破壊し、神経機能の喪失や細胞死を引き起こします。アメリカ国立老化研究所のとある記事に、アルツハイマー病が脳の健康にいかに影響を与えるかについて説明がされています。
さらに、神経原線維変化は損傷を受けたタウタンパク質の群であり、これが神経細胞内に集積されます。健康で損傷のない脳細胞の場合、脳細胞の内部組織である微小管を安定させるためにタウタンパク質が必要になります。微小管は脳細胞の機能をサポートします。脳内の炎症性変化はタウタンパク質を微小管から切り離し、互いにくっつき合い、神経原線維変化を形成します。硬いアミロイドプラークとねじれた神経原線維のもつれは、神経細胞を劣化させ、合図を送る能力に干渉します。これらすべては記憶と認知機能に影響を与え、アルツハイマー病の症状をもたらします。
タンパク質凝集物の異常な蓄積と全身性炎症はミクログリア細胞を活性化します。これはアミロイドプラークを特定・攻撃する脳内の特殊な免疫細胞です。この闘いの最中にサイトカインなどの炎症性化学物質も放出されます。この場合、ミクログリア細胞の活性化は、脳内におけるさらなる炎症とアミロイドプラーク蓄積の増加の要因になります。
クルクミンが血液脳関門を通過し、アミロイドプラークの形成を予防することを示す証拠は次第に増えてきています。これは脳を傷つけるプラークの破壊に役立つ可能性すらあるのです。さらにクルクミンは炎症の要因として知られるミクログリア細胞の強力な活性を調節します。また、タウタンパク質のもつれも解消します。
この2018年の記事は、アルツハイマー病に対するクルクミンの健康効果を強調し、以下のように報告しています。「近年の、アミロイドβ(ベータ)タンパク質およびクルクミンの調査では、ヒトにおいてクルクミンがアミロイドβタンパク質の凝集を予防し、血液脳関門を通過し、脳細胞に届いて、老化による毒性傷害やアミロイドβタンパク質から神経細胞を保護することが明らかにされた。」 [2]
とある2017年の調査では、アルツハイマー病におけるクルクミンの作用様式が要約されました。ここでは、クルクミンが抗酸化物質であることに加え、アミロイドβプラークの形成を予防し、プラークの破壊を促進し、タウタンパク質のもつれを解消し、銅などの重金属と結合し、コレステロールを下げ、さらにミクログリア活性を変化させることが報告されています。このレビューは以下のように結論しています。「クルクミンは現在の治療法よりもより効果的な可能性がある。しかしながら、クルクミンの治療薬としての有用性はその低いバイオアベイラビリティ(生物学的利用能)によって妨げられている。低いバイオアベイラビリティが克服されれば、クルクミンを基にしたアルツハイマー病薬の開発も起こり得るだろう。」 [3]
(低いバイオアベイラビリティへの答えは、リポソーム技術によって解決されています。リポソーム技術についてさらに詳しく知りたい方は、こちらをクリックしてください。)
クルクミンは血液脳関門を通過することができ、さらに脳細胞を炎症から保護することができるため、これによって脳への血流を増加します。そしてこれが記憶と認知の改善に貢献するもう一つのメカニズムなのです。
有望な動物研究によると、クルクミンは脳由来神経栄養因子(BDNF)の生成および活性も増加させることが示されています。 [4] 脳由来神経栄養因子は、神経細胞の成長、維持、生存において重要な役割を担うホルモンです。このホルモンは新しい神経細胞の生成を刺激し、新しい神経連絡の形成を促進します。これは、脳が自身を書き換える能力である、神経可塑性を増加させます。健康なレベルの脳由来神経栄養因子は、学習速度の向上を促し、記憶力を改善し、脳の老化速度を落とします。運動、安眠、瞑想などは脳由来神経栄養因子のレベルを増加させます。また、クルクミンなどのポリフェノールも同様の効果を持ちます。
うつ病におけるクルクミン
神経炎症もまた、うつ病、不安、その多の精神疾患を引き起こすのでしょうか?
脳の高い炎症レベルがうつ病を引き起こす変化をもたらすとする科学的証拠があります。2017年のとある研究は、炎症がうつ病リスクを増加させることについての洞察を与えています。研究者たちは、炎症が新しい細胞の誕生を軽減し、一方で存在している脳細胞の死を早めていることを発見しました。 [5]
近年、日本の研究者グループもまた、繰り返されるストレスがミクログリアを活性化し、サイトカインやその他の炎症性化学物質を放出し、神経炎症を引き起こすことを発見しました。これは脳のとあるエリアの脳細胞の機能に影響し、抑うつ行動を引き起こします。 [6]
うつ病におけるクルクミンの役割は何でしょうか?
うつ病や気分障害の患者は、炎症性サイトカインおよび活性ミクログリア(炎症と関連している免疫細胞)のレベルが高くなっています。さらに、慢性症状を患っている患者はうつ症状によりなりやすいのです。全身性炎症もまた、セロトニン、ドーパミン、グルタミンの生成を妨害します。これらの脳ホルモンは、気分障害、行動障害、不安障害と強く関わっています。
クルクミンは強力な抗酸化物質および抗炎症物質です。これは炎症を誘発する特定の酵素やサイトカインの生成および活性を阻止します。最も重要なのは、クルクミンは炎症や痛みに関与する非常に重要なシグナル経路である、核内因子カッパBを抑制するということです。
多くの研究が、クルクミンはうつ病や不安を持つ患者の治療に効果的な可能性があることを示しています。 [7] [8] [9] 抗うつ剤の長期使用は、体重増加、視界不良、不眠症、性機能不全、疲労といった副作用を引き起こします。クルクミンが不快な副作用を引き起こすことなく、抗うつ効果を生み出すことができるとする証拠は増え続けています。
とあるランダム化二重盲検プラセボ対照試験では、抗うつ剤と併用した際のうつ症状の軽減におけるクルクミン補給の効果についての研究がなされました。ここでは、クルクミンが抗うつ治療の効果を増加できることが示されました。
たった6週間のクルクミン補給によって抑うつ行動が軽減され、サイトカイン、唾液コルチゾールなどの炎症マーカーレベルが低下し、一方で脳由来神経栄養因子のレベルが増加したことが示されました。これらの発見は、クルクミンサプリメントが「大うつ病性障害においてうつ病の進行を逆転させ、抗うつ治療の結果を向上させる」可能性を有していると示唆しています。 [10]
クルクミンの脳の健康サポートに関する概要
クルクミンは以下の効果によって、神経変性および認知機能の低下を予防します。
- 脳の炎症を軽減し、酸化損傷を抑える
- 脳細胞の機能障害および死を引き起こすアミロイドβプラークの形成を軽減する
- 神経細胞を破壊するねじれたタウタンパク質のもつれを解消する
- 脳への血流を増加させる
- 脳が持つ、新たな神経細胞を作り、神経経路を形成する能力を向上させるホルモン、脳由来神経栄養因子のレベルを増加させる
クルクミンは、末期のアルツハイマー病患者と比べて、軽度認知障害の患者に最も効果的であることがほとんどの研究によって判明しています。言い換えれば、クルクミンサプリメントは症状が悪化する前に摂取すればより効果的であるということです。
アルツハイマー病およびうつ病におけるクルクミンの役割を支持するには、より大規模な臨床試験が必要です。しかし、(神経変性障害およびその他の炎症症状におけるクルクミンの役割を調査してきた)数多くの臨床研究がある程度の成功しか収めていないのには理由があります。クルクミンは溶解性が低く代謝が早いので、細胞が利用できる量が少ないためです。
しかしリポソームクルクミン製剤は、細胞における低い吸収や低バイオアベイラビリティといった問題の克服に非常に効果的であることがわかっています。
脳の健康維持、早期変性の予防のためにできることは多くあります。ダンスが脳へ良い効果をもたらし、加齢から脳を守ることは既にお伝えした通りで、さらにクルクミンなどの天然植物性の抗炎症物質はこれらの効果に対する大きな補強となります。
クルクミンは体内の炎症全体を軽減するため、酸化損傷や炎症が重要な役割を担っている状態において、高品質のクルクミンサプリメントは効果的です。例えば、クルクミンは心臓疾患リスクを軽減し、関節痛を軽減し、関節リウマチを持つ人々の生活の質を向上させることにおいて効果があることがわかっています。また、過敏性大腸症候群患者の症状の管理をすることも示唆されています。
翻訳者: 渡辺秀平
参照:
- Varatharaj A et al. The blood-brain barrier in systemic inflammation. Brain Behav. Immun. 2017.
- Reddy et al. Protective Effects of Indian Spice Curcumin Against Amyloid-β in Alzheimer's Disease. J Alzheimers Dis. 2018
- Tang et al. The Mechanisms of Action of Curcumin in Alzheimer's Disease. J Alzheimers Dis. 2017
- Wu et al. Curcumin boosts DHA in the brain: Implications for the prevention of anxiety disorders. Biochim Biophys Acta. 2015
- Borsini, A et al. Interferon-Alpha Reduces Human Hippocampal Neurogenesis and Increases Apoptosis via Activation of Distinct STAT1-Dependent Mechanisms. International Journal of Neuropsychopharmacology. 2017
- Nie et al. The Innate Immune Receptors TLR2/4 Mediate Repeated Social Defeat Stress-Induced Social Avoidance through Prefrontal Microglial Activation. Neuron, 2018.
- Sanmukhani J et al. Efficacy and safety of curcumin in major depressive disorder: a randomized controlled trial. Phytother Res. 2014
- Lopresti AL, Maes M, Maker GL, et al. Curcumin for the treatment of major depression: A randomised, double-blind, placebo-controlled study. J Affect Dis. 2014.
- Ng QX et al. Clinical Use of Curcumin in Depression: A Meta-Analysis. J Am Med Dir Assoc. 2017
- Yu JJ et al. Chronic supplementation of curcumin enhances the efficacy of antidepressants in major depressive disorder: a randomized, double-blind, placebo-controlled pilot study. J Clin Psychopharmacol. 2015
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